「砂時計と記憶・・・風の道しるべ」


”ザーッ”
男「雨・・・かよぉ、天気予報じゃ10%だったのにな」
仕事を終え電車に揺られてこの駅で降りた
ここから徒歩で15分で我が家へ着く
が、今日はすぐ帰るつもりは無かった
男「よしっ」
気持を固め雨の中へ走り出した
 
男「ただいまぁ〜参ったよ、残業でこの雨だろ?」
女「おかえりなさい、そう・・・、ご飯も用意できてるけどお風呂ね」
男「そうだな、濡れてるから先に入るな」
そう言うと風呂へ入る事にした
俺達は大学を卒業して結婚した
もう2年結婚生活をしているが幸せに過ごせてると思う
何も不満など無いし、これからも2人で力を合わせて歩こうと思う
男「あのさ、聞きたい事が有るんだ」
女「何?」
小さなテーブルで2人夕飯を食べていた
先に食べてていいと言うが、いつもこうして待っていてくれる
実はそれが嬉しかった・・・とても
男「・・・・・・・・・・・っはぁ」
言いたくて、聞きたくて・・・でも言葉として出ない・・・
女「どうしたの?大丈夫?」
男「いや、大丈夫、実は何か忘れてさ年かな」
力なく笑って見せるが、心配の表情で俺を見つめている
俺は今日、友人から聞いた催眠術師の所へ行った
そして前から何度も聞きたかった事を質問できないように催眠をかけてもらった
実際こうして今、その質問が言葉として出ない
これで良かったのだと・・・そう、思う
 
催眠術師「いらっしゃいませ、貴方が・・・」
男「はい、紹介で来たのですが」
催眠術師「そうですか、それではおこないますが決心はついていますか?」
男「はい」
その後説明を聞いた
台の上では小さな砂時計が置いてあり、そこへ願うものを押し込める
つまりその砂時計へ預けるという形で催眠をかける
もちろん再び取り戻すことができるらしい
俺が預けたいのは”質問、問い”
大学生の頃、俺達3人はとても仲が良かった
1人暮らしの俺の部屋でよく3人寝泊りして遊びに行っていた
今思えば最高に楽しい日々がそこには存在していたように思えた
そしてひそかに彼女の事が好きになっていた
結果的には卒業をして彼女と結婚できた今が有る
けれど・・・あの日の出来事と事故の2つが重なった結果に思える
そうあの日彼女と親友の話が聞こえた事
親友「あのさぁ、そろそろ教えた方がいいよなぁ俺達のこと」
彼女「そう・・・ね、嘘をつくのも嫌だしね」
2人は付き合っていたのだろう・・・
そうあの日の事故
彼女「事故にあって・・・死んだって・・・」
交通事故で親友だったあいつが死んだ事
俺が預けるのは”もし事故が無かったら、俺たちの今はあったのか?”だった
それは愚問だとは知ってる、けれど聞きたくて何度も言いそうになったのも事実
そしてその質問で今が無くなってしまったらと・・・
男「お願いします」
催眠術師「わかりました、それではこの砂時計を良く見てください・・・」
 
男「はぁ・・・」
仕事が終り駅で降りてベンチに座る
あれから一週間、言えない事が逆に辛くそしてこのままでいいのか?と疑問へ繋がる
ゆっくり立ち上がると歩き出した
温かかった缶コーヒーも冷たくなっていた
辺りは暗くなり星も見えている
男「ん・・・」
肌に突き刺さる風とは別に温かい風が吹いてきた
一瞬立ち止まるとそこは例の店が有る路地への入り口
俺は意を決して再び店へ向かった
ゆっくりドアを開くと店の中へ入る
催眠術師「あ〜貴方はこの間の」
男「実は・・・」
聞けない辛さを痛感して再び戻したい事を伝えると別の部屋へ連れて行かれた
催眠術師「これを見て下さい」
その部屋には棚が有り沢山の砂時計があった
そして一つ一つにラベルが貼ってあり俺の砂時計を指差している
男「ん?すぐ隣に有りますね」
そう、他の砂時計は間隔をおいて置いて有るのに俺のすぐ隣に一つ有る
催眠術師「実は・・・」
催眠術師はゆっくり説明してくれた・・・
質問を預けた日一人の女性が傘を2つ持って現れた
そして俺の砂時計の事を聞いてきたがプライバシーの問題で教えなかった
しかし次の日再び訪れた彼女はあるものを預けたいと言う
結果こうして2人並べる事になった
催眠術師「そう・・・貴方の奥さんです」
俺は言葉を失った
あの日駅に来ていてここまで付いてきたのだろう
結果的に何かを預けた・・・
催眠術師「先に言いますが夫であっても教える事はできません」
何かをここへ預けた・・・何かを・・・
男「すみません」
俺はその後”質問”を戻してもらった
そして家に急いで帰る
男「ただいま」
女「遅かったわねぇお疲れ様、お風呂にする?ご飯にする?」
男「先に話が有るんだ、いいか?」
女「もちろんいいわよ何?」
ゆっくりテーブルに座ると意を決して聞いた
男「あの日、あの店に行ったのか?」
女「はは、ばれちゃった?黙っているつもりはなかったんけど」
男「何を・・・預けたんだ?」
女「んん〜〜それがね、思い出せないのよ」
男「思い出せない?」
そう彼女の預けたものは記憶そのものだった
俺はなんて事をしたのだろう、心配ばかりをかけてしまって
そして決心がついた
男「聞いてくれ、俺が預けたのは・・・」
女「ん?誰?その人、知り合い?」
言葉を失う、彼女には分っていたのだ俺が預けたものを
驚きで言葉を失った俺に彼女は優しくこう言った
女「何か覚えてないけど、その事で貴方を困らせていたのねごめんなさい」
その言葉を聞いた時頬を温かいものが流れる
女「・・・でも、心配しないで私にとって預けたものはきっと必要ないものだと思うから」
ゆっくり立ち上がり彼女を抱きしめた
彼女には全てがわかっていて、結果記憶を預けた
女「私は貴方を愛してる・・・これからも宜しくね」
男「ああ、こちらこそ宜しくな」
その後もずっと彼女を抱きしめ続けた
 
その店には沢山の砂時計が置いてある
全てはそこへ預けられたもの達
その中に珍しくペアの砂時計も置いてあるらしい
2つ仲良く・・・・・